あの戦から三年のち
シチロージは、とある小さな村で道場を開いていた。
一度は蛍屋に戻ってはみたものの、体に染みついた血の匂いからは逃れることはできず・・
その事はシチロージにもそしてユキノにも当に分かってのこと
そしてシチロージは愛する者との約束を果たす為に、この安寧の地から旅立ったのだった。


 妖刀狩り

「シチロージ殿、もうそろそろ夕餉の支度でも致しますか。」
稽古も終わり、道場に置いてある槍の手入れをしていたシチロージに、カツシロウが声をかける。
「おや、もう帰って来たのかい?随分といろいろ貰って来たでげぇすね。」
「お園さんがいつも世話になっているからと・・。」
「あの娘さん、カツシロウに惚れてるでげぇすね。」
「そっそんな・・事は、わっ私は・・シ」
「どれどれ、鮎なんぞ、久し振りでげぇすね。囲炉裏で塩焼きに炙りますか。」
真っ赤な顔でその場に立ち尽くしたカツシロウにシチロージは不思議そうな顔で覗き込む。
「どうしたんで?どこぞ気分でも?」
三年前と比べると背も伸び、シチロージと同じくらいか、目線は心持ち上の様な気もする。
紅玉の様な頬は削げ落ち、眼と共に精悍なものへと変化しているのが分かるが、シチロージにとっては
昔のままの可愛い弟分、修行に出るとそれっきり風の便りもないままに
三ヶ月前に突然ひょっこりと姿を現したカツシロウはそのまま道場で今もシチロージを手伝っている。
正直、弟子相手だけでは寂しく感じる事もあったシチロージはカツシロウが居てくれる事に感謝していた。
と同時に武者修行の途中なのでは、という疑問も付きまとったのだが敢えてシチロージは何も問う事もしないかった。
(話したかったら、いつでも話して下さい。)
 夕餉の準備も終わり、パチパチと囲炉裏の火が楽しげに音を立てる。
鮎の焼けるにおいと炭火の匂いが混じり合い温かな空間を作り出していた。
いつもと変わらぬ風景・・カツシロウはこの二人の時間が何よりも愛おしいと感じる。
シチロージがどう思おうと、カツシロウはこの幸せな一時を一つ残らず心に刻んでいく ―
「カツシロウ、どうです、1本付けますか?」
そう言ってにやりと笑うシチロージが奥に行く姿をぼんやりと眺めながらカツシロウは
自然と笑みが零れるのを抑えきれずにいた。慌てて膝を抓ったりしながらどうにかこうにか平静を保とうとする。
(あの人の代わりでいい。私はここにいたい・・出来るだけ長く)

と、突然、足音が聞こえその殺気に自然とカツシロウは身構えた。
「先生!!」
「何故、お前がここに?」
「道場を手伝ってくれているのです。カンベエ様、兎にも角にも上がって下さい。男所帯で何にもありませんが今、支度を致しますので。」
久々の再会ながら、カンベエはもの思いに沈んだ様子で黙々と盃を空にしていく・・
「カンベエ様?何かあったので?」
「うむ、この間、カンナ村に寄ることがあったのじゃが・・4人の墓標が盗まれていてな・・ギザク殿が妙な事を言うのじゃ。」
「先生、その妙な事とは何でしょうか?」
「近頃、起きている野伏せり達の反乱に4人の刀が一枚噛んでいるとの事・・。」
「キュウゾウ殿やゴロベエ殿の刀は名刀でしたが・・。」
腑に落ちないカツシロウは小首を傾げシチロージを見つめた。
「キクチヨの刀も大き過ぎ、ヘイさんの刀もヘイさんでなければ使いこなせない使用のものだとすると・・。」
宙を見つめしばらく黙りこむシチロージは、ハッとした顔でカンベエを凝視すると絞り出す様な声で呟く。
「妖刀ですか・・。」
「左様、ギザク殿もその様に言っておったわ。鍛冶の魂と使い手の魂が入り混じる刀が妖刀と化した時、
この世に亡き使い手の魂が天から舞い降り、邪悪な力に手を貸すとな。」
「4人は・・操られているのですか?」
「魂が舞い降りているゆえ、上手くいけば生き返る・・上手くいかぬ時は儂達も道連れじゃ。ただ、相手はあの4人、しかも死人故・・」
そう言ったきり黙りこむカンベエを横目で見遣り、カツシロウは意を決した様にシチロージの手を握った。
「シチロージ殿、とにかくカンナ村に行ってみましょう。」
「カツシロウ?」
「生き返るかもしれないのですよ?4人が自分の意思に反して悪に利用されている・・それだけでも耐えがたい!!
私は自分の命など惜しくはない。4人の為に・・そして貴方の為に。」
「カツシロウ・・かたじけない。早速、道場は一時、兄弟子達に任せるとして・・早速参りましょう。」
深々と頭を下げるシチロージは涙を堪え切れず、頭を上げる事も出来ない。
カツシロウも袖で目頭をそっと押えた。
「お主等・・儂を忘れてはいまいか・・。」
咳払いをしてにやりと笑うカンベエにシチロージが慌てて、酌をするとカツシロウも焼きたての塩鮎を勧めた。
「3人揃って、いざカンナ村へ。」

 

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