カツシロウの中の責めは消えることはなく日課になっている早朝の黙祷を欠かす事はなかった。
今日も森の奥に分け入り一人、大樹の下に座す。
妖刀狩り(二)
「キュウ・・ゾウ・・殿!!!」
その日も深夜、丑の刻を過ぎた頃にカツシロウは額に玉の様な汗を滲ませいつもの様にうなされていた。
隣で寝ていたシチロージがゆっくり肩を叩きながら鼻歌で子守唄を聞かせると強張っていた肩は段々と
和らいでゆき、呼吸も次第に落ち着いていく・・
カツシロウが道場に来て間もない頃、シチロージは以前にさりげなく伝えたことがあった。
大戦経験者であった5人は出合った頃より既に半分死人状態であった事を・・
自分が逝くべき道で仲間と共に散る運命にあったのを自分だけが取り残されてしまった
そういった思いが絶えず付きまとい、所在の無い自分達がほんの僅かな時かもしれないがもう一度、
「生きていける場所」=‘カンナ村をサムライとして権力から救ってみせる’を授かったのだ。
その中でサムライとして戦で死ぬるは本望・・例えそれが味方の砲弾であっても。
俯いて話を聞いていたカツシロウはそれでも納得がいかない様子で問い詰める、肩を小刻みに震わせながら・・
「シチロージ殿はそれで割り切れるのですか?キュウゾウ殿への想いはそのような程度のものなのですか?」
「あたしは・・私はキュウゾウに逢えた、短い間だったかもしれないがそれだけで大戦後、生き残れた事に感謝してる。
想い人という前に唯一無二の親友だった・・誰にも代えがたい程に・・それは、今でも変わらない。
正直言ってキュウゾウの死に様には、ちと羨ましいと思う事すらある。
それに私はいつでも目を瞑ればこの背中にキュウゾウの温もりを感じる事ができる。」
あの日シチロージは眩しい笑みを浮かべ柱に背を凭れ木々の隙間から西日の零れる中、暫し目を閉じていった。
シチロージの子守唄を聴きながら次第に解れされていく自分に、もう一人の自分が苦笑している。
三年間、心の何処かで絶えずシチロージを求めて続けてきた事を・・
カツシロウの中での責めは消えることなく続き・・いや、酷くなる一方で今は亡きキュウゾウの代弁者として。
一方では、キュウゾウとシチロージとの関係は自分にとって憧れだった。
― どんな状況下でも背中を預けられ、お互いを求め合い認めている。男女の恋愛とはまた違う、より深い処で繋がっているような ―
遠くからでも二人の視線が絡み合う時、互いに洩らす笑みが当時キララに恋心を抱いていたカツシロウにも眩しかった。
カンナ村を去ったと同時に、一時はあれ程までに思い詰めていたキララの面影はどんどんと薄れてく。
(私ごときの恋心と違いあの二人は永遠に・・)
キュウゾウの代わりで良かった・・少しでも永遠というものを感じてみたかった。
三年間、方々の街を転々としたカツシロウは元来、生真面目な上に口下手で空回りしてしまう事も多く、
腕が立つ割には育ちが良いせいか今でも損な役回りが多かった。
損を損とも考えていない節があった為、逆に変に誤解を受けて遠ざかる者が殆どで、残るは利用する為に自分に近づいてくる輩ばかり。
そんな毎日が続き、蛍屋を訪ねたのはもう心身共に疲れ切っていたあの夜―
「・・・カツシロウ様?!おや、お懐かしゅうございます!」
私を一目見た女将は何もかも承知の様子で奥座敷のこじんまりとした一室に通してくれた。風呂に入り戻ると膳がすぐに運ばれる。
菜の花の御浸しを美味しそうに食べるカツシロウを見て女将は
「・・・あの人もこれが好きでした。」
嬉しそうに呟き、
「今は隣村の道場で一人、師範をしています。逢いに行ってやって下さいな。」
そう言ってにっこりと微笑んだ。
「ユキノさんは相も変わらず綺麗ですね。姿だけでなくそのお心も。」
ユキノのさりげない心遣いに幾度、自分は救われてきたのだろう、そう思うと目頭が熱くなり俯くカツシロウの
未だ残る少年の面影に女将は声色を落とし悪戯っぽい口調で額を叩く。
「カツシロウ様は随分と口がお上手になったでげぇすな。」
「あはは・・似てません。ユキノさん、ありがとうございます。逢いに行きます・・シチロージ殿に。」
あれから三カ月、自分がどれだけ満たされていたなどシチロージは知る由もないだろう。もし妖刀狩りが成功したならば
キュウゾウ殿は生き返り、自分は・・・否、自分など最初からシチロージ殿の心には一部もいない者同然、それにシチロージ殿が
幸せになってくれるのであれば・・・
「カツシロウ、朝餉でげぇすよ。」
遠くからシチロージの声が聞こえてきた。戻ってみると既にカンベエの姿はなく、シチロージに問うと道場の事もあるからと
先にカンナ村にて待つとの事。
「カツシロウも先に行っても構わないでげぇす。後は兄弟子達と村長に道場の事を頼むだけで。おっと熱かったげぇすね!
カンベエ様が、冷めた味噌汁が嫌いなお方だから・・つい」
まだ熱い大根の味噌汁をふうふう冷ましているカツシロウを見て、すまなそうにシチロージは頭を掻いた。
「いや・・私もご一緒させて頂きます!」
その強い視線で真っ直ぐに自分を射る様に見つめるカツシロウにシチロージは慌てて目を逸らし、
「カツシロウにも、お園ちゃんや他の人達にもご挨拶があるさね・・よし出立は今日の午の刻、ここで落合うとしよう。
・・・私はひとまず村長の所に行ってくる。」
くるりと踵を返しそのままシチロージは足早に去って行った。
(カンベエ様があんなこと言いなさるから・・)
その日の朝餉を食べながらカンベエはにやりと笑う。
「あまり深入りせぬ方がよいぞ・・。」
「・・カンベエ様?」
「お主はどうも昔から鈍いところがある故・・。」
今思えば思い当たる節はいくつもあった・・・
(カツシロウは弟の様な存在だと思っていた。なのに何故、少し位の強い視線に私は動揺しているのだろう ―)
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